なぜキリンビールはアサヒビールからトップシェアを奪還できたのでしょうか。
負けていたのは「ビジョン」です。
『キリンビール高知支店の奇跡 勝利の法則は現場で拾え!田村潤/著』を読んで、ビジョンのもつ秘めた力に気づかされました。
運命の分かれ目は「ビジョンがあるかないか」
キリンビールはかつて、日本のトップシェアを誇る有数のビールメーカーでした。
ところが、アサヒビールのスーパードライの誕生を機に様相は一変しました。
アサヒビールが天下のキリンビールから首位の座を勝ち取ったのです。
特に苦戦していたのは高知支店。
そんな高知支店に支店長として配属された著者である田村潤氏(元キリンビール(株)代表取締役副社長)。
そして、田村氏の手腕により、高知支店の売り上げはV字回復。
その後、全国の営業マンを変革させて、ついにアサヒビールとの激戦を制し、2010年1月15日にキリンビールは再び首位に返り咲いたのです。
田村氏が支店長として配属された頃の高知支店では、キリンビールが売れる時代が長く続いたこともあり、当時の営業は苦労や工夫というものを知りませんでした。
また、営業の基本である「とにかく訪問する」という基礎活動にも慣れていません。
さらに、当時の高知支店の社員たちには「ビジョン」がなかったのです。
この高知支店の復活劇の足掛かりになったのが田村氏の信念でもある「ビジョン」でした。
キリンは残すべき会社だし、愛されてきた美味しいキリンビールをひとりでも多くの高知の人に飲んで喜んでいただきたい。
この理念を実現するには市場ではどんな状態が必要なのか。
それは、どこに行ってもキリンが置いてあり、欲しいときに手にとっていただけるという状態です。なぜならそのような状態にあるビールの銘柄がいちばん売れているビールだ。それなら自分も飲もうと思っていただけるからです。
このあるべき状態、これが「ビジョン」です。
出典:キリンビール高知支店の奇跡
社員がみな、それぞれの「ビジョン」をもって、自分なりにどうすればいいかをとにかく徹底的に考えて、創意工夫し、実行するのです。
そして、営業マンが自分の頭でそれぞれのビジョンをイメージしました。
並ぶビニールハウスのすべての冷蔵庫にキリンビールが入ったらすごいな
出典:キリンビール高知支店の奇跡
海側を担当していた営業マンは港で漁に出ていく船を見て、あの船にはキリンビールは積まれているのだろうか、と考えました。聞けば、遠洋漁業の船は100ケースのビールを積んで出港していくという。それがすべてキリンビールになったらすごいな
出典:キリンビール高知支店の奇跡
街なかでビルを建築している現場を見ると、このビルが完成して入っている料飲店すべてがキリンビールだったら素晴らしいな
出典:キリンビール高知支店の奇跡
そしてそのビジョンを拠り所に自分で考えて行動するようになったのです。
ビジョンがあると、次にすべき行動が自然と見えてきます。
長靴をはき、サンプリングの缶をもって、「こんにちは!キリンです」とビニールハウスをかたっぱしから回ったのです。
出典:キリンビール高知支店の奇跡
停泊している船を回って「サンプルをお付けしますので、キリンビールにしていただけませんか」とお願いしたのです。
出典:キリンビール高知支店の奇跡
建築現場にいる方に連絡先を教えていただく。
出典:キリンビール高知支店の奇跡
ビジョンという軸があることで、具体的な指示がなくても、行動は勝手に変わります。
ビジョンが自分の行動を変えるのです。
「ビジョンという軸」があれば自由になれる
管理されて、受け身で、やらされているという行動スタイルでは、自由度が低くなるので言い訳が可能となってしまい、自分の行動に責任をもちません。
しかし、ビジョンという軸が明確であれば、発想や行動に自由が生まれ、自分で考えて工夫し努力し改善していくという、主体的な行動スタイルになるので、自分の行動に責任をもつようになります。
それができれば、数字も自ずとついてきます。
高知支店をV字回復させた要因はテクニカルではなく、考え方であり、捉え方であり、行動スタイルなのです。
このようにして「どこにでもキリンビールがある」というビジョンに少しずつ近づいていきました。
出典:キリンビール高知支店の奇跡
「ビジョン」は道しるべ
「ビジョンがあるかないか」は、到達点を大きく左右します。
ビジョンという到達点があると、どんなに道が複雑だったとしても、方向だけは明確なので、迷いながらも着実に到達点に近づいていきます。
例えば、一つの点から15°の角度で2本の線を引いた時に、中心の出発点の近くでは角度があったとしても、それぞれの線と線の距離は近いので大きな差が開いているようには思いません。
しかし、その角度のまま、ずーっと線を伸ばしていくと、どんどん線と線の距離は遠くなっていきます。
これは、たった1°の差であっても何キロも何十キロも線を伸ばしていくと、とんでもない差が開きます。
これが、「ビジョンがあるかないか」の差です。
ビジョンは、私たちをワクワクさせます。
ビジョンは、原動力となります。
ビジョンは道しるべです。
ビジョンが自分の中にあることで、到達できるために必要なことを脳は考え始めるのです。