午前零時の時報とともに、静かに流れてくるジェット機のエンジン音。
コツコツと足音が鳴り響く、空港ターミナル。
出発ロビーで待っている時の “ あのワクワク感 ” が蘇り、胸は高まります。
おなじみのメロディー「ミスター・ロンリー」が流れてくると、もうそこは、遥か上空です。
機長の福山雅治さんの語り部の、真夜中に溶け込むようなゆったりとしたリズムで、ミッドナイトの素敵な旅が始まります。
遠い地平線が消えて、
深々とした夜の闇に心を休めるとき、
はるか雲海の上を
音もなく流れ去る気流は、
たゆみない宇宙の営みを告げています。
満点の星をいただく果てしない光の海を、
ゆたかに流れゆく風にこころを開けば、
きらめく星座の物語も聞こえてくる
夜の静寂のなんと饒舌なことでしょうか。
光と影の境に消えていった
はるかな地平線も、
瞼に浮かんでまいります。
JET STREAM 旅への誘い詩集ー遠い地平線が消えてー 堀内茂男/著
私は、この詩に惚れ込んで、『JET STREAM 旅への誘い詩集ー遠い地平線が消えてー 堀内茂男/著』を、毎日眺めています。
そして、ラジオで、この詩が流れてくるたびに「言葉って魔法だな」と、つくづく思います。
何もない空間に、色鮮やかな絵が、自由自在に描かれていくからです。
そして、映像では表現できないものを、表現できるのが、言葉の真価。
たとえば、“ 概念 ” のような「見えないもの」や「時間の流れ」、「感覚」といった、映像では一瞬で表現することが難しいものを、いとも簡単に表現し得てしまえるのが『言葉』の持つ不思議な力です。
イマジネーションで成り立っているラジオは、言葉が主役です。
映像では表現不可能な世界観を楽しめるのが、ラジオの醍醐味です。
まさに、この詩にはそれらがふんだんに盛り込まれています。
- 深々とした夜の闇
- 音もなく流れ去る気流
- たゆみない宇宙の営み
- きらめく星座の物語
- 夜の静寂のなんと饒舌なことでしょうか
など、映像では表現が難しいです。
仮にできたとしても、見る側は「壮大で綺麗な光景だな」でとどまってしまい、その先にある、作る側が頭の中に抱いている「深いイメージ」が伝わりにくいような気がします。
たとえば、「夜の映像」を見たとしても、それを “ 深々としている ” というような「夜の深さ」を感じるかどうかは人それぞれだからです。
「雲の上の映像」を見たとしても、 “ 気流が音もなく流れている様子 ” に気づくのは難しいです。
そもそも、「音もなく」という、「ないもの」表現するには、「ない」ということを言わないと伝わりません。
漫画でいうところの、沈黙や静寂さを表すために “ シーン ” とあえて書くように、「音がない」という状態は、言葉で伝えてくれないと認識できません。
仮に、映像によって「気流」を「無音」で表現したとしても、雲の動きに意識が向いてしまい、音もなく流れている「気流の存在」に気づくのも、そこから「静寂さ」を感じるのも至難です。
「たゆみない宇宙の営み」にいたっては、ビッグバンから今までの138億年の宇宙の歴史映像を、延々と見続けて、初めて「途切れることなく続いてきた膨大な時間と、絶妙にバランスが保たれ続けた宇宙の働き」を感じることができます。
それらの「果てしない時間」や「宇宙の見えない力の偉大さ」を、たった一言「たゆみない宇宙の営み 」と、一瞬で言い表せてしまうところが、言葉っておもしろいなと感じます。
小説が、実写化して少し物足りなさを感じるのは、こういう部分にあるのかなと思います。
情景描写のみならず、心理描写においても、言葉でしか表現し得ない「イメージの深み」が抜け落ちてしまうのか、もしくは、たとえ映像の中に盛り込まれていたとしても、動くものに意識が向いているうちに見逃してしまっているんだろうか、とも思うからです。
そして、なんといっても「きらめく星座の物語」と「夜の静寂のなんと饒舌なことでしょうか」は、ジェットストリームの代名詞ともいえる名フレーズです。
「夜」と「星」という、光と闇のコントラスト。
「静けさ」と「賑やかさ」という、映像では同時に登場し得ない二者の共演。
一瞬で美しく幻想的な光景が広がっていきます。
「静寂」と「饒舌」という、たとえ相容れないものであっても、イメージの膨らみの力によって、頭の中の果てしない空間であれば、同時に存在させることも可能です。
洗練された言葉と、美しい音楽が織りなすハーモニーが、まさに『JET STREAM』の真骨頂。
旅も終盤に差し掛かると、再び「ミスター・ロンリー」が流れてきます。
この時に聞く、このメロディーは、旅が終わりつつあるという切なさや寂しさを漂わせます。
まるで、旅先から帰路に向かう飛行機の中にいて、いよいよ着陸態勢に入ったことを知らせる機内アナウンスを聞いているように感じるからです。
夜間飛行のジェット機の翼に点滅するランプは
遠ざかるにつれ、
次第に星のまたたきと区別がつかなくなります。
お送りしております
この音楽が、美しく、あなたの夢に
溶け込んでいきますように。
作・伊藤酒造雄
JET STREAM 旅への誘い詩集ー遠い地平線が消えてー 堀内茂男/著
『 JET STREAM(ジェットストリーム)』は、1967年7月3日にスタートしたので、今年で55周年です。
当時の日本航空(JAL)の方が、アメリカン航空提供のFM番組「Music ‘Til Dawn」からヒントを得て思いついたそうです。
『 JET STREAM 』 という、素敵なラジオ番組を企画してくれて、今もなお続いていてくれることに、感謝しています。